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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)8706号 判決

判  決

東京都中央区銀座五丁目二番地

原告

株式会社三愛

右代表者代表取締役

市村清

右訴訟代理人弁護士

田村福司

同都足立区千住三丁目七十二番地

被告

株式会社三愛

右代表者代表取締役

小山武夫

右訴訟代理人弁護士

比志島龍蔵

右当事者間の昭和三六年(ワ)第八、七〇六号不正競争防止等請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一  被告は、「株式会社三愛」の商号を使用してはならない。

二  被告は、

(一)  東京法務局足立出張所昭和三十五年二月二十四日受付をもつてした被告の設立登記中、「株式会社三愛」の商号を、

(二)  東京法務局江戸川出張所昭和三十五年十月二十四日受付をもつてした被告支店設置登記中、「株式会社三愛の商号を、

いずれも、他の商号に変更登記手続をせよ。

三  被告は、その本店及び支店の店舗に、「三愛」及び「SANAI」と表示をして営業し、繊維製品及びその包装に、「三愛」及び「SANAI」と表示をして繊維製品を販売してはならない。

被告は、その店舗、販売する繊維製品、包装における右表示を抹消し、または、その表示のある繊維製品及び包装を廃棄せよ。

四  原告のその余の請求は、棄却する。

五  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。

事実

(当事者の求めた裁判)

原告訴訟代理人は、「一、被告は、「株式会社三愛」の商号を使用してはならない。二、被告は、(一)東京法務局足立出張所昭和三十五年二月二十四日受付をもつてした被告の設立登記中、「株式会社三愛」の商号の、(二)東京法務局江戸川出張所昭和三十五年十月二十四日受付をもつてした被告の支店設置登記中、「株式会社三愛」の商号の、各抹消登記手続をせよ。三、被告は、その本店及び支店の店舗に、「三愛」、「SANAI」及び「オシヤレの店三愛」又は「オシヤレの店」と表示をして営業し、繊維製品及びその包装に、右表示をして繊維製品の販売をしてはならない。被告は、店舗、商品及び包装における右表示を抹消し、または、その表示のある商品、包装を廃棄せよ。四、被告は、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞の各東京本社版に、表題、会社名及び代表者名を各二倍活字、その他は一倍活字をもつて、別紙記載の謝罪広告を各二回にわたつて掲載せよ。五、訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、右二の予備的請求として、主文第二項同旨の判決を求めた。

被告訴訟代理人は、「原告の請求は、いずれもこれを棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

(請求の原因)

原告訴訟代理人は、請求の原因等として、次のとおり陳述した。

第一  不正競争防止法第一条に基く請求

一  原告は、商号を「株式会社三愛」、本店を東京都中央区銀座五丁目二番地、目的を日用品雑貨、飲食料品、酒類、繊維製品及び化粧品等の販売、資本金を金一千万円として、昭和二十三年八月三十一日設立登記された会社である。原告は、右設立と同時に、市村清から「SAN-AI三愛」の標章の商標権を譲り受けた。その後、原告は、営業目的を主として婦人向きの衣類、服飾品及び雑貨類の販売とし、その意匠に特段の工夫をこらし、常に新しい優秀品を廉価で提供したため、業績大いにあがり、昭和三十三年末には、西銀座デパート内に宏大な店舗を設けて西銀座店とし、ついで、昭和三十六年二月には銀座西五丁目三番地三愛ビル内に、三愛みゆき店を設けて高級日用雑貨品を販売し、さらに、札幌市、名古屋市、小倉市をはじめ各地に支店や営業所を置き、又、全国の有名百貨店内に「三愛コーナー」を設け、資本金も昭和三十六年七月には金二億五千万円となつた。

原告の「株式会社三愛」の商号、その略称又は通称である「三愛」、そのローマ字で表した「SANAI」、及び、「SAN-AI三愛」の商標並びに「おしやれの店三愛」又は「おしやれの店」の表示が、繊維製品の販売について、原告の商品又は原告の営業であることを示すものとして、東京都内にはもちろん日本全国にわたつて、需要者に広く認識されている。

二  被告は、商号を「株式会社三愛」、本店を東京都足立区千住三丁目七十二番地、目的を織物、衣服、身のまわり品及び飲料品の小売業並びに飲食店、資本金を金百万円として、昭和三十五年二月二十四日東京法務局足立出張所において、その設立登記をし、同年十月十日、東京都江戸川区小岩町四丁目千七百五十二番地に支店を設け、同月二十四日、東京法務局江戸川出張所において右支店設置の登記をした。

被告は、繊維製品の販売について、次の商号及び表示を使用している。すなわち、

(一) 「株式会社三愛」の商号を使用している。

(二) 本店及び支店の店舗に、「三愛」及び「SANAI」と表示したものを掲げている。

(三) 包装用袋に、「三愛」及び「SANAI」と表示し、これを商品の包装に使用した。

(四) チラシ広告に、「三愛進出のため各店が値下げ競走をはじめたそうですが、本当に嬉しい事です。(略)三愛」と記載し、これを一般の顧客に配布した。

(五) 本店の店舗に、「オシヤレの店」と表示したものを掲げている。

(六) 包装用袋に、「オシヤレの店」と表示し、これを商品の包装に使用した。

三  被告の使用する「株式会社三愛」の商号は、原告の商号と同一である。被告の使用する「三愛」及び「SANAI」の表示は、原告の商号の略称又は通称である「三愛」、及びそのローマ字で表した「SANAI」と同一であり、かつ、原告の商標「SAN-AI三愛」と類似する。さらに、被告の使用する「オシヤレの店」の表示は、原告の標章である「オシヤレの店」と同一である。したがつて、被告の前記(三)及び(六)の行為は、被告の商品を原告の商品であるかのように、一般顧客に誤認混同を生じさせたものであり、前記(一)、(二)、(四)及び(五)の行為は、被告の本店及び支店、又はその営業が、原告の店舗又はその営業であるかのように、一般顧客に誤認混同を生じさせたものである。

四  被告の前記行為により、原告の売上高が減少し、原告の営業上の利益が害されたか、すくなくとも、売上高に影響し、原告の営業上の利益が害されるおそれがある。

よつて、請求の趣旨第一項から第三項記載の判決、並びに、右第二項の予備的請求として、主文第二項同旨の判決を求める。

第二  不正競争防止法第一条の二に基く請求

商品及び営業の主体を混同させた被告の前記行為により、原告は、その営業上の信用を害された。よつて、営業上の信用を回復するに必要な処置として、請求の趣旨第四項記載の謝罪広告を求める。

第三  商法第二十条第一項に基く請求

一  原告は、昭和二十三年八月三十一日商号を「株式会社三愛」、本店を東京都中央区銀座五丁目二番地として、設立登記された会社であり、繊維製品等の販売を目的とするものである。被告は、昭和三十五年二月二十四日、「株式会社三愛」をその商号とし、本店を東京都足立区千住三丁目七十二番地として設立され、昭和三十五年十月十日東京都江戸川区小岩町四丁目千七百五十二番地に支店を設けたものであり、原告と同種の繊維製品等の販売を目的とするものである。そして、前記第一の(一)から(六)までの事実によると、被告は、原告の営業が一段顧客の信用を得、その商号が広く認識されているのを知つて、原告と同一の商号をもつて被告の商号とし、もつて、一般の顧客をして、被告の営業を原告の営業と混同誤認させようとしたものである。すなわち、被告は、不正競争の目的をもつて、原告と同一の商号を、原告と同種の営業に使用するものである。

二  よつて、原告は、前掲第一、第二の請求と選択的に、商法第二十条第一項の規定に基き、請求の趣旨第一、二項同旨の判決、並びに、右第二項の予備的請求として、主文第二項同旨の判決を求める。

第四  商法第二十一条に基く請求

被告が、不正競争の目的をもつて、「株式会社三愛」の商号を使用しているものでないとしても、被告は、前記のとおり、不正の目的をもつて、被告の営業が原告の営業であると誤認せしむべき商号を使用しているものであるから、原告は、商法第二十一条の規定に基き、前記第三記載の判決を求める。

なお、被告の主張事実は、すべて争う。

(被告の主張)

被告訴訟代理人は、答弁等として、次のとおり述べた。

一  原告主張の事実中、原被告の商号、本支店所在地、設立、支店設置の年月日、各営業目的及び登記の事実、並びに、被告が繊維製品の販売について、原告主張の(一)から(六)までの商号又は表示を使用したこと(ただし、「三愛」、「SANAI」及び「オシヤレの店」と表示した包装用袋は、本店設立当時短期間だけ使用したものに過ぎず、チラシ広告も、開店当時一般顧客に二回にわたつて配付したものであり、「三愛進出」の文字は小さな活字で印刷されているにすぎない。)は、いずれも認めるが、その余の事実は争う。

二  原告の商品及び営業上の施設又は活動と、被告のそれらとは混同を生ずることはない。

(一)  営業品目の相違―原告の営業品目は婦人向けの高級服装品その他高級雑貨品であるのに対し、被告のそれは、一般大衆向けの呉服、綿布、服地、寝具、カーテン地、ベビー服等である。

(二)  顧客の相違―原告の店舗は、東京都内の中心の繁華街にあるため、その営業は、附近の住民に依存せず、通行人を主たる対象とするに対し、被告の店舗は北千住及び小岩にあり、附近の家内工業労働者、農民等の住民を対象とする。したがつて、両者の顧客は、地域的、質的に全く異なる。

(三)  営業上の施設又は活動の相違―原告の店員と被告の店員とは、その服装もバツジも異なる。被告の包装紙には、その商号を「北千住三愛」又は「三愛北千住本店、小岩支店」と記載し、原告の包装紙とは、書体も図案も異なる。被告の新聞折込みのチラシ広告には、つねに「北千住三愛」又は「三愛北千住本店、小岩支店」と記載し、時々銀座三愛(原告)とは関係がない旨明示している。原告の商標は「SAN-AI」であるのに対し、被告は、「SANAI」と表示し、中に―がなく、書体も異なる。被告は、昭和三十五年十二月からは、クローバーの中にSanaiと表示したものを包装紙等に使用しており、原告の商標と明らかに異つている。

(四)  なお、原告も被告も小売業(販売店)であり、いずれも商品を仕入れて、販売するものであるから、その仕入商品には製造業者の商号、商標等製品マークが表示されているので、販売店の商号、商標等は、商品の混同を生じさせるものではない。

(五)  以上のとおり、原告の商品及び営業上の施設又は活動と、被告のそれとは、相違があり、混同を生ずることはない。したがつて、被告の行為により、原告の営業上の利益を害するということは、ありえない。

三  被告は、「オシヤレの店」の表示を店舗に掲げ、包装用袋にも使用したが、右表示は、取引上一般に、衣料品、化粧品及び身のまわり品の販売営業に慣用せらるるものであり、被告は、これを普通に使用される方法をもつて使用するものであるから、不正競争防止法第二条第一項第二号の規定により、同第一条の規定による差止請求の対象にならない。

四  かりに、原告の商号及び商標が本邦の地域内において広く認識されているとしても、被告の現在の代表取締役小山武夫は、これが広く認識される以前である昭和三十四年九月、東京都足立区千住三丁目七十二番地に繊維製品の販売の個人商店を開店し、「三愛」の商号を善意で使用し、また、右商号を使用した繊維製品を販売していたものであるが、被告は、昭和三十五年二月二十四日、右小山武夫から、その営業とともに、「三愛」の商号の使用を承継して、これを使用し、また、右商号を使用して繊維製品を販売したものである。したがつて、不正競争防止法第二条第一項第四号の規定により、被告の行為には、同法第一条、第一条の二の規定は適用されない。

五  被告は、商法第二十条にいう「不正競争の目的をもつて」株式会社三愛の商号を使用しているものではない。すなわち、被告代表者小山武夫が、同期の若手経営者で若葉会を結成し、その会員が店舗を設ける場合には、「三」の頭文字を商号に用いることになつていたので、小山武夫が、商号を選定するにあたり、西郷南州の言葉にちなみ、「天より、地より、人より愛される店であれ」という趣旨から、被告の商号として、「三愛」の文字を選んだものである。したがつて、被告は、不正競争の目的をもつて、「株式会社三愛」の商号を使用するものではない。

(証拠関係)(省略)

理由

第一  不正競争防止法第一条に基く請求について

(原告の商号、商標等が、本邦の地域内で広く認識されていたか。)

一  原告の商号、本店所在地、営業目的、資本金額及び設立の日が、原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがなく、(証拠)によると、原告は会社設立当時から、「SAN-AI三愛」の商標を使用していたことが認められる。

二  (証拠)によると、原告は、おそくとも昭和二十七年ごろまでには、営業目的を主として婦人向きの衣類、服飾品及び雑貨類の販売としたこと(この事実は、日時の点を除き、当事者間に争いがない。)、原告は、昭和三十三年十月一日。西銀座デパート内に、その売場面積の二分の一にあたる九百坪の店舗を設けて、西銀座店としたこと、原告は昭和二十六、七年ごろから引きつづき、卒業直前の女子高校生に対し、ダイレクトメールを発送し、あるいは、女子学校の催物及び学内新聞を利用して宣伝し、婦人雑誌に広告をしてきたこと、原告は、昭和二十七年ごろから、「おしやれの店三愛」として宣伝したため、そのころから、東京都以外の若い女性の間にも、原告が「三愛」又は「おしやれの店三愛」として知られるようになつたことを認定しうべく、これを左右するに足る証拠はない。

三  以上認定の事実に(証拠)及び本件口頭弁論の全趣旨を合せ考えると、原告の「株式会社三愛」の商号、その略称又は通称である「三愛」及びそのローマ字で表わした「SANAI」、「SAN-AI三愛」の商標並びに「おしやれの店三愛」の表示が、原告の商品又は営業であることを示すものとして、少くとも昭和三十四年九月当時には、すでに東京都を中心として本邦の地域内で需要者に広く認識されていたことが認められ、被告代表者本人尋問の結果中右認定に抵触する部分は、前記証拠に照らし、にわかに信をおきがたく、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

四  なお、原告は、「おしやれの店」の表示が、原告の商品又は営業を示すものとして、本邦の地域内で需要者に広く認識されていると主張し、証人奈良正一の証言(第一回)は、右主張に添うところがあるけれども、右証言部分は、多分に主観的独断的であり、とうてい、そのまま信用することはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張は採用できない。したがつて、この事実を前提として被告に対し、「本店及び支店の店舗にオシヤレの店と表示をして営業し、繊維製品及びその包装に右表示をして繊維製品の販売をしてはならない。被告は、右表示をしたものを抹消又は廃棄せよ。」と求める原告の請求は、理由がないものといわざるをえない。

(被告が、原告の商品又は営業上の施設もしくは活動と混同を生ぜしめているか。)

一  被告が、商号を「株式会社三愛」、本店を東京都足立区千住三丁目七十二番地、目的を織物、衣服、身のまわり品及び飲食料品の小売業並びに飲食店、資本金を金百万円として、昭和三十五年二月二十四日東京法務局足立出張所において設立登記をし、昭和三十五年十月十日、東京都江戸川区小岩町四丁目千七百五十二番地に支店を設け、昭和三十五年十月二十四日、東京法務局江戸川出張所において支店設置の登記をしたことは、当事者間に争いがない。

二  被告が、繊維製品の販売について、

(一)  「株式会社三愛」の商号を使用していること。

(二)  本店及び支店の店舗に、「三愛」及び「SANAI」と表示したものを掲げていること(甲第七号証の一、二、甲第八号証の一から四、甲第十号証の一から三参照)。

(三)  包装用袋に、「三愛」及び「SANAI」と表示し、これを商品の包装に使用したこと(甲第十三号証の一から参照)。

(四)  チラシ広告に「三愛進出のため各店が値下げ競走をはじめたそうですが、本当に嬉しい事です。(略)三愛」と記載し、これを一般顧客に配布したこと(乙第十二号証の一、二参照)。

はいずれも当事者間に争いがない。

なお(証拠)によると、被告が繊維製品の販売について、

(五)包装紙に、「SANAI」又は「三愛」と表示し、これを商品の包装に使用していること。

(六)  チラシ広告に「三愛」と記載し、これを月二回、一回十万枚位を新聞折込みの方法によつて、一般顧客に配布していることがいずれも認められる。

三  なお、原告は、「被告は、本店及び支店の店舗に、「オシヤレの店三愛」と表示をして営業し、繊維製品及びその包装に右表示をして繊維製品を販売してはならない。被告は、右表示をしたものを抹消又は廃棄せよ。」との判決を求めるけれども、被告が「オシヤレの店三愛」の表示を使用していることについて、なんらの主張も立証もしないから、右請求は、理由ないものというほかはない。

四 しかして、被告が使用する「株式会社三愛」の商号は、原告の商号と同一であり、被告が使用する「三愛」及び「SANAI」の表示は、原告の商号の略称又は通称である「三愛」及びそのローマ字で表わした「SANAI」と同一であり、かつ、原告の商標「SAN-AI三愛」に類似する(外観においては、異なるけれども、「サンアイ」という称呼においては同一であり、標章より生ずる観念において同一であるというべきであるから、両者は類似するものと認められる。)ものといわなければならない。

五  以上認定の事実に(証拠)を合せ考えると、被告が繊維製品の販売について「株式会社三愛」「三愛」及び「SANAI」の表示を使用することにより被告の商品である繊維製品又は原告の営業上の施設である店舗、もしくは営業活動と原告のそれとを混同を生ぜしめ、あるいは、すくなくとも、混同を生ぜしめるおそれがあるものと認められ、(中略)他に、右認定を覆すに足りる証拠はない。なお、被告は、営業品目、顧客、及び営業上の施設又は活動について、原告と被告のそれとの間には相違があるから、原告の商品又は営業上の施設又は活動と混同を生ずるものではないと主張する。しかし、被告主張の原告、被告の各営業品目も、ともに繊維製品の範疇に属するものであり、(証拠)によると、これらに記載された「北千住三愛」、「三愛北千住、小岩」、「小岩三愛」又は「北千住小岩三愛」の文字中、北千住及び小岩の文字は、三愛の文字に比し相当小さいものと認められ、また、これらが地名を表するものであること、および原告の店舗と被告の店舗とが相当の距離をへだてていることは、顕著な事実であるから、原告と被告との間に、顧客その他について被告主張のとおりの相違があつたとしても、前記五掲記の証拠によると、原告の商品又は営業上の施設もしくは活動と、被告のそれと混同を生ぜしめるおそれがあるものといわざるをえない。したがつて、被告の右主張は、理由がない。

(被告の行為により、原告の営業上の利益が害されるおそれがあるか。)

(証拠) 及び弁論の全趣旨によると、被告の前記行為により、原告の営業上の利益が害されるおそれがあることを認定しうべく(中略)他に、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(不正競争防止法第二条第一項第四号に基く被告の主張)

被告は、「その前主である小山武夫は、原告の商号が本邦の地域内において、需要者に広く認識される以前である昭和三十四年九月から、原告の商号と同一の商号を善意に使用していたものである。」と主張するけれども、原告の商号が、昭和三十四年九月当時すでに、本邦の地域内において、需要者に広く認識されていたものであることは、前判示のとおりであるから、右主張は採用することができない。

(商号の抹消登記手続について)

本件において明らかにされた事実関係のもとにおいては、不正競争防止法第一条の規定による原告の請求は理由があるものということができることは、すでに前段において説示したところにより明らかであるが、このことから直ちに、被告は「株式会社三愛」なる商号の抹消登記手続をすべき義務あるものということはできない。けだし、株式会社の商号は、いうまでもなくその会社を特定し、かつ、これを他の会社と識別するための表示として欠くことのできないものであり、商法は、株式会社の商号を定款の必要的記載事項とし、かつ、会社の設立の登記における必要的登記事項としているところであるから、株式会社である被告について、登記上、全くその商号をなくしてしまうことは、法律上、許されないものと解するを相当とするからである。しかしながら、他面、被告が「株式会社三愛」なる商号を使用することが法律上許されないものであること前叙のとおりである以上、その使用禁止の実効あらしめるために、被告は、その商号を右使用を禁止された商号以外の商号に変更する登記手続をすべき義務あるものと解するのが相当である。

第二  商法第二十条第一項及び第二十一条に基く各請求について

商法第二十条第一項及び第二十一条に基き、商号の抹消登記手続を求める原告の請求は、たとえ、右各法条に定める要件を具備するとしても、商号抹消登記手続を求めることが許されないものであることは、前判示のとおりであるから、理由がないものといわざるをえない。

第三  不正競争防止法第一条の二第二項に基く請求について

原告は、被告の前掲の行為により、その営業上の信用が害されたことを理由にその信用を回復するに必要な処置として別紙記載の謝罪広告を命ずべきである旨主張するが、被告の前掲各行為により原告の営業上の信用が害された事実を認めるに足りる明確な証拠はない。(被告の商品なり営業が、原告のそれと誤認混同されたとしても、それだけで直ちに原告の営業上の信用が害されたといえないことは、あえて、多くの説明を必要としないところであろう。)したがつて、被告の行為により原告の営業上の信用が害されたことを前提とする原告の右請求は、理由がないものといわざるをえない。

第四  むすび

以上説示のとおりであるから、原告の本訴請求は主文掲記の範囲内においては正当として認容すべきも、その余は理由がないものといわざるをえないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十二条本文の規定を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二十九部

裁判長裁判官 三 宅 正 雄

裁判官 楠   賢 二

裁判官 竹 田 国 雄

(別紙)

謝 罪 広 告

当会社は昭和三十五年二月二十四日設立以来、貴会社の商号と全く同一の「株式会社三愛」の商号を使用し、「おしやれの店三愛」として宣伝したり、「三愛進出」と広告したりなどして営業し、恰も当会社が貴会社の出店であるかの如くに、一般顧客をして誤信させ、貴会社に対し多大の御迷惑をおかけして来ましたが、右はいずれも不正競争防止法及び商法違反の行為でありますので、当会社は即時「株式会社三愛」の商号使用を廃止して、その商号登記の抹消登記手続をするとともに、今後右のような不正行為を再びしないことを誓約し、ここに貴会社に対し深く陳謝の意を表します。

昭和  年  月  日

京京都足立区千住三丁目七十二番地

株式会社 三愛

右代表取締役 小 山 武 夫

東京都中央区銀座五丁目二番地

株式会社 三愛

右代表取締役 市 村 清殿

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